優秀な設計士は雇うべからず

「ウチにも、有名な建築家のようなセンスの良い設計士が社員にいればなぁ……」 工務店経営者なら、一度はそう夢見たことがあるはずです。

しかし、断言します。 「優秀な設計士」を社員として雇ってはいけません。

今回のテーマは、多くの会社が陥る「人材育成と組織編成のジレンマ」についてです。

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優秀な人間ほど、あなたの会社には残らない

残酷な事実をお伝えします。 本当に優秀で、センスがあり、お客様を魅了できる設計士というのは、例外なく「独立志向」が高いものです。

彼らは自分の名前で勝負したい。自分の作品を世に残したい。そう考える生き物です。 あなたが彼らを雇い、高い給料を払い、環境を与えても、彼らが満足するのは一瞬。実力がつけば、彼らは必ず「卒業」という名の独立を選びます。

社内に優秀な設計士がいると、確かに便利です。ちょっとした変更もすぐ頼めるし、社内調整も楽でしょう。 しかし、彼らを「固定費(給料)」として抱えることは、経営上の大きなリスクです。 受注が取れようが取れまいが、人件費は毎月出ていきます。逆に、設計を外部の建築家や設計事務所への外注(アライアンス)に切り替えれば、それは「変動費」になります。 案件が発生した時だけ費用が発生し、その分はお客様から設計料として頂けばいい。

経営の鉄則は「固定費を下げ、変動費化する」こと。 設計士を抱え込むことは、この鉄則に逆行する行為なのです。

【実録】10年かけて育てた部下が、最強のライバルになった日

これも私が実際に経験した、ほろ苦い記憶です。

かつて私は、新卒で設計スタッフを採用し、手塩にかけて育てていました。 CADの使い方から教え、現場を見せ、お客様との打ち合わせに同席させ……。 10年という歳月をかけて、ようやく一人前になりました。建築士の資格も取り、お客様の前でも堂々とプレゼンができる。 「よし、これからコイツがウチの設計を背負って立つんだ」 そう思った矢先でした。

「社長、独立させてください」

彼が独立したのは、なんとウチの会社のすぐ近く。商圏は見事に被っています。 私が投資した10年分の教育コストを持って、彼は私のライバルになりました。 当然、元いた会社の弱点も知っていますし、お客様の奪い合いにもなります。

その時、悟りました。 「囲い込もうとするから、裏切られたと感じるのだ」と。 最初から独立志向の高い優秀な設計士とは、雇用関係ではなく、対等な「アライアンス(提携)」を組んでおけばよかったのです。そうすれば、彼らの独立は脅威ではなく、強力なパートナーシップの始まりになっていたはずですから。

「ないものねだり」をやめて、社長の出自を強みに変えろ

そもそも、社内に「優秀な営業」「優秀な設計」「優秀な監督」の全てを揃えようとするのが間違いです。 三者はそれぞれ価値観が違います。

  • 営業は「売りたい」
  • 設計は「作品を作りたい」
  • 現場は「収めたい(楽に作りたい)」

この三すくみの状態で連携を取るのは至難の業です。 無理にバランスを取ろうとするのではなく、社長自身の「出自(強み)」を軸に組織を作るべきです。

  • 社長が「営業出身」なら: 最強の営業部隊を作ることに集中し、設計や施工は信頼できる外部パートナーに任せればいい。
  • 社長が「設計出身」なら: 高付加価値な設計を売りにし、安売りはせず、少人数で高利益体質を目指せばいい。
  • 社長が「現場出身」なら: 施工品質を武器にし、販売力のある会社の下請けや、設計事務所の指定工務店として高額物件を確実に収めるポジションを取ればいい。

中途半端にCADオペレーターを雇ったり、過剰な設備投資をする必要はありません。 システムと外注をうまく使えば、ビルダー系の会社では1人の設計士が年間60棟を回している事例さえあります。

「全部自前でやる」という昭和の工務店経営は、もう終わりです。 何を持ち、何を捨てるか。その判断が経営者の仕事です。

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