現在、建設業従事者の高齢化が顕著となり、今後、退職によって人手不足がより深刻になると予想されている建設業界。
それに加えて、若者の建設業界離れも見られ、厳しい状況あります。
「人手不足のために受注を逃してしまった」という工務店も中にはあるのでしょうか。
このような人手不足を解消する方法の一つに社員大工の雇用があります。
本コラムでは、社員大工とは何か、工務店が社員大工を雇用するメリット・デメリットを解説します。
目次
社員大工を簡単に説明するならば、「自社専属の大工」ということになるでしょう。
工務店において大工技能を有し、建設技能職として雇用している大工のことを指します。
自社で雇っているため、請負契約の件数や内容ではなく、雇用契約時に定めた固定の金額を給与として支払います。
木工事や木造住宅の建設には、大工は欠かせない存在です。大工は工務店と請負契約を交わし、業務を委託する一人親方として仕事をしているのが一般的です。
しかし、インボイス制度の開始などにより、一人親方などの個人事業主との取引を行う場合、免税措置を受けられないなどの不利益が発生することが想定されています。
そのため、一人親方に仕事を発注するよりも、自社の社員として雇用するケースが増えることも考えられるでしょう。
また、現在、建設業従事者の平均年齢は44.5歳となっており、そのうち約3割が55歳以上で高齢化が進んでいます。
今後は、定年によって大量に退職者が予想されているため、工務店は中長期的な観点から人材の確保が必要となるでしょう。
社員大工として雇用することで、大工の担い手の確保と育成を行うことは、建設業界の大工不足に備える一つの選択肢となるかもしれません。
上述のとおり、社員大工を雇用することは、今後に起こりうる大量退職に備えて人材を確保するための選択肢です。
しかし、社員大工を雇用することにより得られるメリットは、それだけではありません。
ここでは、社員大工を雇用するメリットについて解説します。
一人親方の場合、仕事が必要な場合にだけ請負契約を結ぶことになります。そのため、生活の不安や将来の見通しが立てにくく、若手が入職・定着しにくいことが問題です。
工務店が直接、大工を社員大工として雇用することで仕事量が安定します。さらに、社会保険に加入することもできるので、生活基盤の安定も図ることができるでしょう。
社員大工となれば労働環境も改善される可能性が高くなります。2024年4月からは時間外労働の上限規制が始まることにともない、休暇も取りやすくなるでしょう。
これらの要因から、若手の入職促進が図られると考えられます。
また、社員として採用することで、技術研修や教育制度など、入職者がキャリアアップを図れる体制を整備することで、働きやすい職場であることをアピールすることが可能です。
キャリアアップ制度が整っていることで、モチベーションの向上が図られ、若手の入職促進と同時に技術を習得することができるようになり、定着化も促進されるでしょう。
基本的に一人親方は、依頼を受けた現場や作業を単発で請け負います。そのため、新しい技術の習得やそのシステムを構築していくことが困難です。
若手の大工や入植したばかりの大工が、先輩の大工から技術やノウハウを教わる機会や、それらの技術や経験を問われるような機会が少なくなったことで、成長を阻んでいるという課題も存在します。
社員大工の場合、技術継承のシステムが構築されているため、人材育成にじっくりと取り組むことができ、技術や知識、ノウハウを身に付けることが可能です。
また、それらを現場で活かすことによって、大工としての成長を促進することができます。
さらに、工務店の企業理念や住宅づくりの理念を社員大工と共有できることで、大工自身がプライドや責任感を持って施工を行うなるでしょう。
その結果、施工品質の向上につながると考えられます。
社員大工は、工務店の強みやコンセプトを明確に理解しているため、顧客へのアピールや競合の工務店やハウスメーカーとの差別化につながります。
社員大工を雇用していることで、施主や設計担当者との情報共有をスムーズに行うことが可能です。
例えば、住宅設計や、その前段階のプラン作成の段階から社員大工が入ることで、顧客がどのような家づくりを望んでいるかをいち早く知ることができます。
また、顧客の要望に基づいて家具のオーダーメイドについて提案したりと、交流を深めることが可能です。
顧客はもちろん、営業担当や設計担当、担当大工が信頼関係を築いていくことで、顧客に寄り添った、安心・安全な家づくりができるようになります。
このような点において、社員大工を雇用することで競合他社との差別化につながるのです。
それでは、社員大工を雇用することには、どのようなデメリットがあるのでしょうか。
社員大工のデメリットとしてはコスト面が挙げられます。景気が良く、新規受注やリフォームの依頼が多ければ、特に問題はないでしょう。
しかし、受注件数が減少すると、場合によっては社員大工の手が空くことになります。だからと言って営業や事務の仕事をしてもらうわけにはいきません。
社員大工の手が空いていたとしても給与は発生するため、コスト面ではデメリットと言えるでしょう。
また、社員大工として雇用する場合、労働時間や休暇の取得など、労働環境を整える必要が出てきます。
大工にとっては素晴らしい環境ですが、そのために工期が延びてしまう可能性があります。
工期が延びれば、その分の費用は顧客が負担することになるでしょう。予算が割高になれば、顧客が離れてしまうという可能性も考慮しなくてはいけません。
そもそもの問題として、大工を雇用できないという点もデメリットと言えるかもしれません。
前述のとおり、建設業従事者の約3割が55歳以上と高齢化しているだけでなく、29歳以下は約1割程度となっていますので、大工を雇用しようと思ってもできないという問題があります。
企業は、社員を雇用する際に厚生年金保険や健康保険などの「社会保険」に加入する義務があります。これは、大工を社員として雇用する際にも当然当てはまります。
また、社員を一人でも雇用している企業は、「労働保険(労災保険と雇用保険)」に加入しなくてはいけません。
社会保険と雇用保険は、大工を雇用している工務店にも一定の保険料率が課せられるため、工務店と社員大工の双方で社会保険料を負担します。
一方で、労災保険は工務店が全額負することになります。
さらに、社員大工の給与に対する源泉徴収や年末調整などの処理も必要なため、事務業務の負担が増えるでしょう。
社員大工を雇用する場合、このようなコスト・労力を念頭に置いて、事業計画や予算計画を立てるようにしましょう。
若者の建設業離れが進み、工務店においては深刻な人手不足という問題を抱えています。
そこで、確かな技術や知識、スキルを習得でき、生活基盤を安定させることができる「社員大工」を雇用することが、人手不足の解決につながるかもしれません。
生活基盤が安定し、労働環境も整えられ、確かな技術を身に付け、それを活かす場所がある社員大工は、若手への強いアピールになる可能性があります。
また、工務店にとっては、顧客の望む家づくりの形を、いち早く共有することが可能となり、競合他社との差別化を図ることも可能です。
以上のような理由からも、深刻な人手不足解消の手段として、社員大工の雇用は有効な方法だと言えるでしょう。
技術の継承が進まず困っている、大工の人手が足りずに困っている工務店は、社員大工の雇用を選択肢として考えてみてはいかがでしょうか。
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