資材の価格高騰などに伴いコスト管理に悩んでいる工務店も多くいるのではないでしょうか。
一方で家づくりを検討しているお客様はデザイン性や建物の性能、高機能な設備など要望はますます上がっています。
また、世界的な動きの中で、日本が2050年までに二酸化炭素排出0を宣言し、住宅業界でも脱炭素の動きが高まる中で、高性能住宅はスタンダードになっていきます。
本記事では今後の家づくりの性能を高めていく必要の中で、特に耐震等級3を取得しつつ、資材高騰にも負けないコストダウンをする方法や住宅を建てる際のポイントについて解説いたします。
コスト高になりやすい木材や基礎の部分で抑えるヒントについてお伝えしますので、参考にしてみてください。
目次
まずはじめに、耐震等級についての説明をしていきます。
耐震等級については1から3までの3段階に分かれており、耐震等級1が基準になります。
耐震等級1は建築基準法で耐震性能を満たす水準となっています。
数百年に一度程度の地震に対しても倒壊せず、また数十年に一度程度の地震に対しては住宅が損傷しないレベルの等級を表しています。
そして、本記事で取り上げている耐震等級3は、耐震等級1の1.5倍の地震に耐えられる性能を持っていることを表しています。
具体的には震度6や7の大きな地震が来ても、建物自体は小さな補修で住み続けられるレベルです。
災害時の拠点となるような消防署や警察署の建物は、倒壊してはならないため耐震等級3で建設されています。
すなわち、官公庁や絶対に倒壊してはならない建物のレベルのものを建築するには「耐震等級3」を確保する必要があり、今後の住宅においても同等のレベルを有する性能を確保することが重要となります。
では次に、住宅構造を考える際に重要なポイントについて説明をしていきます。
ここでの大切なキーワードが下記の3つになります。
直下率とは、柱や耐力壁が1階と2階でどの程度揃った位置に配置されているかという割合になります。
つまり、1階と2階の間取りを似た形にすることにより、直下率を上げることが可能です。
地震の力が各部分にスムーズに伝わるような構造計画は、直下率を上げるとバランスの良い建物を建てることができるため、耐震性も上がると考えられます。
直下率のみで耐震性が上がるということを判断するのは難しいですが、耐震性を図る上では重要な要素の1つになります。
次に、スケルトン・インフィルについてです。
これは構造躯体と内装を別で作る考え方であり、スケルトン(構造躯体)とインフィル(設備・内装)を分離させるものになります。
マンションなどでは多く取り入れられている手法になりますが、戸建住宅でも取り入れることが可能です。
スケルトンは柱や梁などの構造躯体のため耐久性が高いことが特徴なのに対し、インフィルは間取り変更や設備更新が容易にできることが特徴に挙げられます。
両方のメリットを活かしながら、建物が長持ちしやすいうえ、生活スタイルに合わせて内装の自由度を上げながら設計することが可能です。
総二階とは、1階と2階がほぼ同じ作りをしている住宅のことを示します。
総二階についてはコスト面と性能面の2つの観点からメリットがあると言えます。
コスト面においては、構造的に凹凸が少ないため壁や柱を効率よく使うことができ、コストダウンにつなげることが可能です。
性能面では、1階と2階の構造が似ており、バランスよく壁・柱の位置を組み合わせることができるため、耐震性能が高くなるとも言えます。
次に、住宅を建てる際のコストダウンについて説明をしていきます。
本記事でお伝えするコストダウンをするためのポイントは下記の5つになります。
近年ではウッドショックと呼ばれる木材の価格高騰により、悩まされている工務店の方も多くいるのではないでしょうか。
また石油の高騰に伴う、建築資材の全体的な値上げも見られます。
そのため、住宅を建てる際には木材を効率よく使う必要があります。
その方法として先ほども説明をした、直下率・スケルトンインフィル・総二階などの考えを活かすことが可能です。
材積を減らしながら効率的に建築することで、コストダウンにつなげることができるでしょう。
また、安価な樹種で構造を検討することや、仕入れ価格の見直しという面で安いルートから仕入れるということも必要かもしれません。
耐震等級3を取得するためには品確法での「性能表示計算」、または建築基準法における「許容応力度計算」を行う必要があります。
性能表示計算の場合、細かな計算や検証を行わず、性能表示によるチェックをすることにより耐震性能を測ることができます。
そのため、より正確な構造計算をするためには、許容応力度計算が必要になります。
お客様の安全を守るという観点からも、許容応力度計算での耐震等級3がスタンダードになると言えるでしょう。
建築基準法については4号特例縮小などの改正もあるため、以下を参照してください。
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許容応力度計算の耐震等級3においてコストダウンを図るためには、構造ルールを決める必要があります。
直下率を良くする、外周部だけで耐震等級3を実現する、強くてシンプルな基礎を作ることなどがコストを下げることにつながります。
次に、コストダウンをするためにプレカット業者を見直してみることも大切です。
長年取引をしている業者があると、その状況に慣れてしまい価格を見直す機会も減ってくるのではないでしょうか。
コストの見直しとして、構造図をもとに各社に相見積もりを取ってみることも手段の1つになります。
相見積もりを取ることで現状の相場を知ることができると同時に、仕入先を見直すことによりコストを下げることも可能です。
会社の利益確保と、お客様のためにも価格競争力を持たせることは重要になります。
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次に、安定供給できる樹種で構造を考えることもコストダウンにつながります。
外国産の木材については世界情勢なども影響しており、樹種によっては入荷の時期が不安定になっているものもあります。
また、価格の変動もあるため安定的なコスト管理が難しい部分があります。
そのため、国産材に切り替えて仕入れるという選択肢を持っておく必要もあるかもしれません。
日本国内の各地域で手に入りやすい樹種を使うことや、KD材と呼ばれる短期で人工的に乾燥させた木材を使うことで、安定的な供給を得ることが可能になります。
最後に、住宅の土台である基礎の部分でコストを見直す必要もあります。
基礎の設計をする際には地盤の質が重要になります。
地盤に合わせて構造設計を行い、強い基礎を作る必要があります。
地盤が強いところに関してはベタ基礎が適しています。
注意する点としては、地中梁のないベタ基礎の設計をされている住宅もありますが、こちらは強度を保てない恐れがあります。
そのため、ベタ基礎で設計をする場合は、地中梁を入れ強度を増すことが重要になります。
一方、地盤が弱いところでは杭を入れた布基礎が適しています。
地盤が弱くなっているため布基礎のみでは耐震性に不安がありますが、強度のある硬い地盤まで杭を打ち込むことにより布基礎の支えとなります。
基礎に関してはコンクリートや鉄筋の量によってコストが変わってくるため、地盤に適した施工方法を見極めコストダウンにつなげる必要があります。
本記事では、耐震等級3を取りながらコストダウンをする方法をお伝えしてきました。
コストダウンをするということは、質が下がってしまうことをイメージするかもしれません。
今回お伝えした方法によっては、強度を保ちながらコストダウンにつなげることは十分に可能です。
工務店が利益を確保することと、お客様の要望に応え喜んでもらうことの両方を実現できるように、実践できる部分を検討することをおすすめします。