建築に携わる人であれば、一度は耳にしたことのある構造計算。特に設計士であれば建物の構造検討をする上で耐震性能について重要な項目です。災害発生時に、建物から命を守るために重要な計算ではありますが、ほとんどの構造計算は専門業者が行っているため、住宅業界に勤めていても詳細について知らない方も多いでしょう。
この記事では、今さら聞けない構造計算とは何か?また、なぜ構造計算されていない建物があるのか?さらに木造2階建て住宅の四号特例の落とし穴についても解説いたします。
目次
構造計算とは、建物が安全かどうかを検討・計算することです。建築する際に建物の重さや、人・物が中に入った場合の重さなどを計算し、通常時や地震・台風などの自然災害時に耐えられるかどうか、安全を確かめます。
建物には次のような、さまざまな負荷がかかります。
上記の負荷に対し、建物が安全な設計になるように、各構造部材について計算します。構造部材の設計は、生活が安全になるための設計です。日常生活の中で、とくに意識している方はいないと思いますが、壁が床に対して垂直に真っ直ぐ立っていることや、柱や梁があることは構造計算されているからです。
構造計算は複雑な計算なため、自社で行わず専門会社に外注するメーカー、工務店も多いです。
構造計算の費用は次の点を基準にして決めている企業があります。
・平米当たり金額
・ルート計算
・建物の構造
上記で決める事務所が多いです。計算が難しくなるほど構造計算の費用は上がります。
構造計算をすると、構造計算費自体のコストが発生することと、柱などの部材の量が追加になることが考えられ、構造計算を行わない場合よりも建築コストが高くなります。建築物件によって異なりますが、30坪前後の一般的な住宅で30万〜50万円が相場です。
構造計算書はA4用紙で100枚以上もの量になるため、作成には多くの時間と労力が必要です。このため外注する企業が多く、専門業者もそれだけの費用を請求します。
構造計算は、計算が必要な建物と、必要がない建物があります。構造計算が必要な建物は次のものです。
上記の条件以外の建物には構造計算をしなくてもいいことになっています。
一般住宅でよく見られる、木造で2階建て以下の住宅がこれに当てはまります。
このことは後述する「木造の四号特例とは」で詳細を解説します。しかし、四号特例についても落とし穴がありますので、特に工務店の設計士は気に留めておくべきでしょう。
構造計算の方法は、建築基準法で定められており、「構造計算ルート」といいます。
建築物件のルート内容を検査機関に提出し、建築基準法に違反していないか確認を受ける必要があります。これが「建築確認」と呼ばれるものです。
ルートは下記の3種類があります。
ルートの中で具体的には下記の計算をしています。
詳細を解説します。
建物の構造計算は、荷重計算から始まります。その中の鉛直荷重の計算から始まります。
■鉛直荷重(縦方向に受ける荷重)は下記のものが当てはまります。
上記を合計して荷重の総計を出します。
次に、応力計算、断面計算、水平荷重の計算と進んでいきます。
応力計算とは、建物への荷重や、発生する力がどのように建物の部材に伝わるかを調べることです。
応力計算により、試算された内容から部材に伝わってきた力に対し、部材が壊れることなく耐えられるかどうかを計算します。
地震や台風が発生したときに建物にかかる負荷(水平荷重)を、建物の重さから計算します。これで部材が耐えられるかどうかがわかり、部材の質や量が決定します。
■水平荷重(横方向に受ける荷重)は下記のものです。
・地震が発生したときに受ける力(地震力)
・台風が発生したときに受ける力(風圧力)
ここまでがルート1です。
ここまでの計算で、台風や地震が発生したときに建物が耐えられるかどうかの計算を行いました。次に変形計算を行っていくのがルート2です。
変形計算とは、建物の傾きを計算することです。これを層間変形といいます。台風や地震が発生したときに、それぞれどのくらい傾きが発生するのか、という計算です。
そして下記の内容も計算します。
剛性率とは、上階と下階の硬さのバランスのことです。
偏心率とは、建物の硬さ・重さの偏りのことです。バランスよく建物を支えることができているかを調べます。
具体的には、0.3度以上傾かないように設計します。この範囲の傾きは、地震の揺れが収まった後に再び元に戻る範囲内、ということで設定です。
剛性率・偏心率はともに建物のバランスが重要になるため、外観のデザイン性に影響があります。デザインによってはバランスを保つことが難しくなるためです。
ここまでがルート2です。ルート2まで計算された建築物は、構造計算されたものとして認識されます。
ルート3は、さらに大きな地震が発生したときに、全壊しないかどうかを調べることです。これを保有水平耐力計算といいます。
まず、巨大地震が発生したときの破壊力を、建物の重さから計算します。そして、建物が地震によって傾いたときに、どこまで耐えられるかを調べます。
ここまでがルート3です。ルート3まで構造計算された建物は、大きな地震がきて建物が傾くことがあっても、中にいる人は安全になるように理論上は計算されています。
前述しましたが、全ての建物が構造計算をされていません。構造計算を義務付けられている建物以外は、「四号建築物」と呼ばれています。
「四号建築物」は特例として、構造計算書の提出をしなくてもいいことになっています。建築士が設計・計算を行うことが条件です。このことを「四号建築物確認の特例」といいます。多くの一般住宅を占める「木造2階建て以下」は、この特例の対象です。
特例に関し、重要なことがあります。
「構造計算書の提出をしなくていい」ことになっていますが「構造計算をしなくていい」ことにはなっていないのです。安全性を不確かなものにしていいわけではありません。
しかし、この特例を誤認し、もしくは故意に構造計算を行わない業者がいます。構造計算には時間・費用のコストがかかるため、特例として認められているのであれば構造計算しなくていい、という考えです。
構造計算が行われていないことも一つの原因となり、日本各地の大きな地震では、建物が半壊、全壊するなどの被害が出ています。
2022年11月現在、被害が出ても政府は木造住宅の構造計算を義務化していません。しかし、四号特例に関して廃止に向けた動きが出ており、今年の4月に四号特例に関する規定の縮小に関する法案が可決されました。施行は2025年という見込みとなっており、工務店やハウスメーカーの設計業務の見直しや転換が迫られています。
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今回の記事では、住宅でも今後必須になる構造計算について詳しく解説しました。
構造計算の内容は複雑で難しいものです。しかし、安全な住宅を提供するためには重要で必要な作業です。
多くの一般住宅では、構造計算が法律で定められていません。体制の完備や、建築業界の混乱を避けるためにも急に義務化とはならず、時間がかかります。
今後は木造2階建住宅でも必須項目とされる構造計算について理解し、取り組むことをおすすめします。